学習理論

学習理論とは、学習の原因や仕組みを説明する心理学の理論。つまり、吃音の場合で考えると・・・「吃音は学習されたもの」と考えることになります。
学習とは・・・・経験によって新しい行動が身に付いたり、それまでとは違う行動をするようになること。つまり、吃音を学習理論で考えると・・・経験によって「吃音」という行動を身につけてしまった。ということになります。
学習理論の代表的なものは「レスポンデント条件づけ(古典的条件づけ)」と「オペラント条件づけ」。

レスポンデント条件づけ(古典的条件づけ)

パブロフの犬の実験は、みなさん、聞いたことがありますか。ふつう、犬は食べ物を見ると・・唾液を出しますよね。ベルの音と一緒に食べ物を見せる、というのを繰り返すと、やがて、犬は、音を聞くだけで・・・唾液を出す!!という実験です。
普段は・・

$$食べ物→犬は唾液を出す$$
$$ベルの音→犬は変化なし$$
↑ベルの音には、犬は反応しません。犬が唾液を出すのは「食べ物」があるときだけ。
$$食べ物+ベルの音→犬は唾液を出す$$
↑食べ物があるんで犬は唾液を出します。これを何度も繰り返します。すると・・・
$$ベルの音→犬は唾液を出す$$
↑犬は「ベルの音」だけで、唾液を出すようになります。

つまり、何も反応がなかったはずの「ベルの音」が、「唾液を出す」という行動(反応)を引き起こしたわけです。
例えば、学校での数学の授業。数学の先生が個人的に気に入ったら(好きになったら)・・・数学の授業も好きになるでしょう。。それがレスポンデント条件づけ(古典的条件づけ)です。

オペラント条件づけ

箱にはレバーと給餌装置があります。レバーを押すと食べ物が提示される仕組みになっています。この箱にねずみを入れた場合、ねずみはレバーを押すようになります。最初の1回は偶然にねずみがレバーを押すと、その反応に食べ物が与えられます。その結果、ねずみがもう一度レバーを押す可能性が高くなりますよね。

要するに、ある行動に対して、報酬が与えられると・・・その行動を繰り返す、ということ。これがオペラント条件づけ。
何か行動したとき、いいことがあれば・・その行動をまたやりますよね。人から褒められたり(報酬をもらえば)、その行動を繰り返す・・それがオペラント条件づけです。

では次に、学習理論の見地から吃音を考えましょう。

ハル流学習理論

言葉を覚えたてにもかかわらず、いきなり流暢にしゃべれる子どもってふつう、いませんよね。どんな子どもでも言葉の覚えたての時期は、よく発語にひっかかるもの。ただ、その時期に親や周囲の大人から、言葉について注意されたり、罰を受けたりすると「言葉」と「不安」が結びきます(条件づけします)。すると、子どもは、話をする場面で強い不安感を持つようになります。
そして、「話したい欲求」と「話すことが怖い(不安)」ということの間に生じた葛藤(コンフリクト)が起こり、その葛藤が吃音という混乱した発語行動として表出されるわけです。混乱した発語行動(吃音)は葛藤の解決という結果を受けて、より一層強化されることになります。
※ウイッシュナーのハル流の学習理論

スキナー流学習理論

言葉を覚えたての幼児期ではたどたどしくしゃべったり、言葉にひっかかったりするものです。言葉にひっかかっても子どもは何とも考えず・・ただ、話したい!しゃべりたい!そんな純粋な思いでいるはずです。
親が、たどたどしく話す子どもの言葉に対して例えば、会話における礼儀(訓練)を教えたり、何か罰を与えたりすると・・子どもは、「聞き手(親)」を恐怖に感じることになります。
その恐怖・不安は、子どもの非流暢な発語パターン以外に沈黙やモガキ反応を引き起こすようになります。そして親のさらなる礼儀(訓練)や罰によって子どもの発語行動は、変質した反応パターンへと進んでいきます。

いわゆる随伴運動です。口をゆがめたり、特殊な呼吸をしたりといった一種のおまじない的な反応へと進化していきます。
※シエームスとシェリックのスキナー流の学習理論

学習二因説

言葉を覚えたての幼児期はたどたどしくしゃべったり、言葉にひっかかったりするものです。そんな子どもの発語にたいして親が会話における礼儀や罰を与えると子どもは、「話す場面」に対して不安を覚えるようになります。
レスポンデント条件づけの原理)
子どもが再びその場面に出合うと不安が生じて、実際の罰刺激が提示されなくてもその不安が動因となって、その場面からの回避反応が形成されていきます。
その回避反応は不安動因の低下(ホっとする)という事態の発生によって強化されていきます。
(オペラント条件づけの原理)
※ブラットンとシューメーカーのマウラーの学習二因説

では最後に「学習理論と吃音」のまとめです。

学習理論と吃音・まとめ

発語行動はもともと自発的なもので、自分の意思を伝達する手段にすぎません。突然の恐怖や驚きによって発語の非流暢性が出たとしてもそれは、突発的、偶発的なものであって学習され、反復されるものではありません。
つまり、それは吃音行動とは異なります。
しかし、子どもにとって繰り返して、ある一定の場面で負の情動を体験するとすれば条件づけの原理によって、その場面に出合うと負の情動が生じることになります。
ここでは場面と連合した負の条件づけが形成されていることになり、吃音は学習されたもの、と考えることができます。

吃音行動は聞き手にとって不快な刺激であり、聞き手による嘲笑や積極的な批判などの反応が吃音者に対してもどってきます。また、吃音者自身が自分の発語行動の不適切性を認識することができるようになると自己監視機構によるフィードバックが形成されることになります。

 

回避反応・まとめ

吃音行動は負の情動条件づけによって、不安が生じるようになります。そしてその不安を避けようと回避反応(回避行動)をとるようになります。
回避行動としては息の吸入や息の流れを変えること、口をすぼめたり、発声器官を前もって調整したり、鼻にかけて、又は鼻にかけないで話したり。。
また、具体的に話す場面を回避してしまうことも。例えば、電話を使用しない、積極的に発言する機会をもたない、人と接する機会を最小限にしてしまうとか。
こうした回避反応は一時的に不安を減少させることにより固定化します。回避反応として学習された行動パターンは吃音行動を複雑にし治療をますます困難なものにしてしまうものです。